
戦場のマリオネット
第2章 終わりなき責め苦
彼女と同世代の貴族達と違って、ギャフシャ夫人の首や手は、紫外線に抗えなかった五十年余りを物語っている。
イリナの腰や尻を撫で回していた斑の強い手が私にまで伸びてきたので、そんな彼女の戯れをかわし、ミリアム達の待つ群れへ戻った。
「お疲れ様です、隊長」
私達が控えるのは、物見席から死角になっている場所だ。
市民の中には、今の軍に不満を抱いている者も多い。咎人がイリナというのもあって、暴動が起きた際に備えて、構えておく必要があった。
「すごい人の数ですね。市民だけじゃなくて、貴族まで。平和好きなくせに、ああいうスリルが好きなのか、いたぶられるのがイリナだからか、どっちでしょう」
「どっちもだろう。国民からすれば、コスモシザ一つ落としても、恩恵はない。そのくせいつ戦火を浴びるか分からないし、軍資金は馬鹿にならない。税金の負担も」
「豊潤な土地を手に入れる前に、困窮が先に来ると主張している経済学者の声もありますもんね」
「貴族達の中にも、反対派のやつらが……。しかし公爵様のご意欲は変わりません。我々の努力を無駄にしないために、やるしかないのです」
「ああ、後戻り出来ないなら急げば良い」
イリナの公開体罰は、午前と午後に分けて行われた。
午前は、まずギャフシャ夫人が彼女の上体を丸裸にして、乳房の根元に枷を嵌めた。枷には鎖が付いており、二メートルほどの高さの柱を二本持ってこさせると、柱の穴にポールを通して、イリナの乳房を吊り上げた。
手首は拘束したままだ。乳房を宙に突き出すイリナに、早く死ね、と観衆達は血眼になる。
