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戦場のマリオネット

第2章 終わりなき責め苦


* * * * * * *

 ここに来てから、どれだけの朝と夜を越しただろう。

 生きるために必要な行為を全てやめてしまいたいのに、食事を拒めばメイドが無理矢理私の口をこじ開ける。それと同様、眠りに興味を示さなくても、いつも、いつの間にか夢に落ちている。

 十五回以上は眠った。つまり半月はここにいるかも知れない。


 ラシュレは、私が目を覚ます三度の内の二度はここを訪れる。

 数日前、一度目隠しをされて外へ連れ出されたのを除いては、彼女は私をはしたない格好にして、人が人に行使する行為とは思えない暴虐の限りを尽くす。そしてコスモシザに背けと命じる。毎日毎日。初めは感じて耐えていた痛みも、今は感じることを放棄して、自然な死を待っている。


 気位の高い顔をしている、女神ではなく軍神の加護を受けたような鋭い目つき。そう言って、昔はよく、貴族達が影で私の容姿を非難していた。
 完膚なきまでアイビー家の人間の特徴を受け継がなかった私にとって、ラシュレのあの外見だけは、素直に羨むところがある。
 穏やかな緑の目に、優しい顔かたち。短く切った傷み一つない金髪は色素が薄く、女性的な色香も匂わせながら、清らかな少年を彷彿とする雰囲気が、あれだけの行為を重ねていながら、神が慈悲を与えるようにさえ見える。


 ラシュレを羨ましく思うなんて、身体の他にも、私はどこか壊れたのだろう。



 リディ様はどうしているかと天井を見上げる。

 あの天井より更に上階で、今も不安な思いをしているはずだ。

 リディ様は私を許してくれたが、純潔を破ったことに関しては、彼女が黙秘してくれて済む問題ではない。許してくれただけで救われた。反面、自分が情けない。

 私には、ラシュレの剣を奪って彼女らを刺し殺す勇気もない。そうしたところで、リディ様の手を引いて逃げきれるだけの自信もない。


 いつも食事を運んでくるメイド達が、定期的に私の身体をこすって水を流す。バケツに汲んだ冷水に、使うのは雑巾。

 リディ様も同じ屈辱を受けているのだと思うと、国に帰れても、やはり彼女に合わせる顔がない。

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