
戦場のマリオネット
第2章 終わりなき責め苦
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富に見合った手入れをして、自身の美貌に拘泥する令嬢達はたくさんいる。彼女らが有り余る時間を浪費して手に入れる類の人為的な美を、この環境下で衰えることを知らないリディからは感じない。
輝くような髪や肌に眩暈さえ覚えながら、私はメイドに運ばせた人肌よりやや低い温度の湯に浸したスポンジを、折れそうに細い背中に滑らせていた。
コスモシザの王宮生活は私の知るところではなかったが、湯浴みにおいて、王族の女でも手の届くところは自分で出来るらしい。リディは私に髪を預けて、自身で全身を洗い終えた。ボディソープを流してタオルで拭う。
リディがネグリジェに手を伸ばしたところで、私はメイドを下がらせた。
「有り難うございます、ラシュレ様。上流貴族である貴女に、こんな面倒を見ていただくなんて……」
「感謝なら、君の命乞いだけはするあの騎士にでもしておけ。今は君を生かしておくよう、上からの指示があるんでね」
「そういう風に仰る貴女は、きっとお優しい方なんでしょうね。国を治める立場に親しい貴族ほど、本心で立ち振る舞えないのは理解しているつもりです」
リディが寝台に腰かけた。
寝具も取り替えられるここは、廃屋の中でも比較的環境が良い。
父がリディをここに入れたのは、情けではなく、か弱い姫君に病などで倒れられては不都合だからだ。
私も同じだ。イリナを見て精神的ショックを受けた彼女は、いつ首をくくるか分からなかった。心にもない甘い言葉をかけて、彼女の騎士でも手を出さなかっただろう身の周りの世話をする。彼女を生きながらえさせるためだけに、疑いを知らない彼女が厚意と受け取るように接する。
「イリナは……生きてますか……」
解放しろ、会わせろ、と言わなくなったのは、彼女なりの諦めか。
姫君の盛装から無防備な少女に戻ったリディを、私は胸に抱き寄せた。
