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戦場のマリオネット

第2章 終わりなき責め苦


* * * * * * *

 ジスラン・オーキッドの家内だという女が地下に姿を見せたのは、今日もまた微睡みに落ちていこうとしていた頃だ。

 メイド達を従わせて、夜分の来訪に眉を下げるオーキッド夫人は、あのラシュレの母親でもある。彼女とは似ても似つかない。しかし軍人を多く輩出している一族の女と聞けば納得のいく、上品なドレスに身を包んではいても、どこか猛々しい雰囲気を背負った婦人だというのが、彼女にいだいた私の第一印象だ。


「今なら皆、眠っているわ。私の部屋へ来て下さい。温かいお茶と、先にシャワーを」

「何のつもり?」


 戦に直接関わっていない貴婦人とは言え、彼女の名前を聞いた私には、厚意をそのままの意味では受け取れない。

 私は、はっきりとした警戒心を感情の外に張りつけていた。そのくせ夫人の肩を借りていなければ、節々が痛んで歩けない。育ちの良い令嬢達のか弱さを、今は冗談でもからかえない。


「同情だと、受け取って下さらない?」

「同情?」

「貴女もリディさんも、とても若い。それなのに国同士の都合のために、せっかくの人生をもったいないものにしていらっしゃる。貴女と同い歳の娘のいる母親として、君主様には申し訳ないことをしている自覚はあるけれど、貴女がリディさんとも会えないと思うと……」

「……あの人、私と同い歳だったんだ」


 二十四年という歳月は、長い。国に従うより他に正しいことなど、忘れてしまえるほどには。

 この夫人からすれば短いのか。

 噛み合わない観念がどうしてか笑可しくなって、久しく胸が羽根のように軽やかになる。

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