
戦場のマリオネット
第2章 終わりなき責め苦
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ジスラン・オーキッドの家内だという女が地下に姿を見せたのは、今日もまた微睡みに落ちていこうとしていた頃だ。
メイド達を従わせて、夜分の来訪に眉を下げるオーキッド夫人は、あのラシュレの母親でもある。彼女とは似ても似つかない。しかし軍人を多く輩出している一族の女と聞けば納得のいく、上品なドレスに身を包んではいても、どこか猛々しい雰囲気を背負った婦人だというのが、彼女にいだいた私の第一印象だ。
「今なら皆、眠っているわ。私の部屋へ来て下さい。温かいお茶と、先にシャワーを」
「何のつもり?」
戦に直接関わっていない貴婦人とは言え、彼女の名前を聞いた私には、厚意をそのままの意味では受け取れない。
私は、はっきりとした警戒心を感情の外に張りつけていた。そのくせ夫人の肩を借りていなければ、節々が痛んで歩けない。育ちの良い令嬢達のか弱さを、今は冗談でもからかえない。
「同情だと、受け取って下さらない?」
「同情?」
「貴女もリディさんも、とても若い。それなのに国同士の都合のために、せっかくの人生をもったいないものにしていらっしゃる。貴女と同い歳の娘のいる母親として、君主様には申し訳ないことをしている自覚はあるけれど、貴女がリディさんとも会えないと思うと……」
「……あの人、私と同い歳だったんだ」
二十四年という歳月は、長い。国に従うより他に正しいことなど、忘れてしまえるほどには。
この夫人からすれば短いのか。
噛み合わない観念がどうしてか笑可しくなって、久しく胸が羽根のように軽やかになる。
