
戦場のマリオネット
第3章 懐柔という支配
「あの二人を見て、つくづく思った。イリナさんの忠誠心は、私達が考えていた以上に重い。ねじ伏せるのは不可能だと。彼女と話して、こうも思った。相手も人間なのだから、情に働きかけて、彼女に私達を信頼させれば、痛めつけるより早くことが進むんじゃないかと」
「失敗すれば、コスモシザとの密通が疑われたりしませんか」
「だからと言って、拷問だって成功している?」
そこに正面から指摘を受けると、本当に痛い。
この二週間、雑務や訓練は通常通りにこなす片手間と言っても、私はイリナに尽力してきたはずだった。成果は、と問われれば、彼女を衰弱させたくらいだ。
私の隣でティーカップを傾ける格好をとるアレットが、明らかに耳をそば立てていた。
「ラシュレ。どのみちイリナさんもチェコラスで暮らすことになるのだし、今日は街を案内して差し上げなさい」
「お母様!」
「アレット?」
「お姉様は、今日お休みなの。私とお出かけして下さるお約束なの」
「ごめんね、アレット。アレットには、手の空いているメイドさんに同伴をお願いしてあげるから」
「そういう問題じゃなくて……」
イリナの件を難航させている私には、アレットとの約束を主張しづらい。父まで賛同を始めた提案に、彼女が日を改めるよう軌道を変えてくれないかと願ったが、結局、あの手この手で彼女は宥められてしまった。
