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戦場のマリオネット

第3章 懐柔という支配


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 刑場の一件で市民達にも顔の知れたイリナをそのまま出せば、騒ぎになる懸念があった。

 私達は、普段は母の身の周りを世話することの多いメイドの一人から洋服を借りた。

 ブロンドの長い髪のウィッグに花のコサージュを挿して、捕らえた時と同じほどの薄化粧の施されたイリナは、久し振りに血色が戻って見える。
 顔立ちがはっきりしている分、腰まである髪を下ろした彼女に、不本意ながらアレットの面影が重なった。共布フリルが少しあしらわれた生成りのブラウスに、真紅のくるぶし丈ワンピース。なるほど街に馴染むには申し分ない格好だ。


「貴女は労働階級の女にしては、目立ちすぎるわ。それに私の格好は、貴女がやるべきだったのよ」

「メイドの趣味だ、他に手はない」

「これも私への辱め?」

「辱められてるのは私も同じだし、従軍貴族は労働しているのと同じじゃないか」

「いいえ。軍は王家という神様にお仕えしている。労働ではなく、宿命だわ」


 イリナの方は、彼女の好みに合わないだけで、洋服としての一般基準は満たしていると思う。
 私がメイドに着せられたのは、貴族の紳士や一部の女が、舞踏会で袖を通す類のデザインだ。素材こそ質素でも、見た目だけを一言で言えば、架空の皇子風。デコレーションケーキのようなリボンタイのブラウスもすごいが、グレーの薄手ジャガードのベストに織り込まれた小鳥柄も凝っている。庶民の間でも、度々、若年層の女を中心に過剰装飾の注目される時代が巡ってくるらしい。

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