
戦場のマリオネット
第3章 懐柔という支配
送迎の馬車が遠ざかっていくと、私達は街を散策した。
イリナは私が腕を組んでおかないと、すぐよたつく。耐えられないほどの痛みはないと彼女が言うのは、私への遠慮ではなく、気丈な彼女のプライドだろう。
涙ぐみでもすれば少しは可愛げもあっただろうに、私の費やした二週間は、彼女から歩く力も奪えなかった。
時折、感じやすい年頃と見られる少女達が脇を通り過ぎては、腕を絡めて身体を密着させる私達に、うっとりとした目を向けてくる。
「この国は、昼間から腕を組んでいても目立たないのね」
「今日はカップルが多いな」
「カトリックの国は、もっと厳格かと思ってた」
「聖職者達は、もっとすごいみたいだ。世間から離れたところで暮らしてる分、好き放題してるって噂」
「噂であって欲しいわ。教えを蔑ろにするなんて、ぞっとする」
多くの言葉を交わしても、私達は相容れないだろう。
それでも話さずにはいられなかった私達は、相変わらず初々しい恋人達を気取って、美術館や公園を巡った。各所ある美術館には、チェコラスにいる数少ない芸術家達の作品や、古い装飾品が展示されているところもあった。
イリナは、それらに詳しかった。おそらく歴史の教師に教わったのだと言う彼女自身、知識の出どころを覚えていない。幼少期の記憶が断片的に途切れていて、そのことを話せば両親に酷く叱られていたために、放っておくしかなかったという。
世界各地から集められてきた絵画や工芸品を観る内に、そうしたものへの所感だけは、イリナと私は衝突しないことが分かった。目のつけどころや好みの傾向だけ、少し近い。
