
戦場のマリオネット
第3章 懐柔という支配
四季咲き薔薇の集められた庭園で、私達は休むことにした。
「ラシュレ、それ……」
「何?」
「コスモシザでしか採れない、…──よね?」
イリナが注視したのは、私の左耳を飾るピアスだ。
薄暗い地下から外に出て、石の色がはっきり確認出来たのだろう。
「誰かにもらったんじゃないかな。君の記憶と一緒で、気づいた時にはあった」
「そう、……」
乳白色の奥ゆきを秘めた石は、直径二ミリもないほどの小さな欠片だ。それに気づいたイリナは、母の見解した通り、筋金入りの愛国者ということだろう。
年中咲いていることの出来る薔薇の品種は、人の背丈を越えないという。限られた中で気位高く咲き乱れる薄紅や白、真紅の植え込みを眺める私達を、強烈な甘い香りが包んでいた。
「神なんかいない。いないものに、イリナはいつまで固執するの?」
「いないですって……?」
「いないさ。女神も、キリストも。女神を信じようがキリストを信じようが、君が信仰の対象を変えたところで、君自身は変わらない。現実に寿命が延びるだけだ」
「…………」
