
戦場のマリオネット
第3章 懐柔という支配
途方もなく長い歴史のただ一瞬存在していた一人の個人が、女神だ神だと崇められるようになっただけ。かつて生身だった彼らに対し、人間は何を求めているのか。
神の名前で、人が人の思想を統べることは出来る。時の権力者達の多くは、そうした科学的根拠もない威光を掲げて、人の心を意のままに動かしてきた。
少なくとも私は、チェコラスの重臣であるはずの両親に、物心ついた頃からそう教え込まれてきた。
神などいない。生きて救われる人間などひと握りだと。目先にあるものを重んじろと。
「それは、違うわ」
イリナの凛と響く声が、淡々と甘い香りのそよ風に添う。
「信じて初めて、神様は私達を見つけて下さるの。女神様は、確かに私を助けて下さらなかった。お姿を見せて、慰めても下さらないけれど、私の女神様を信じている気持ちが、支えになってる」
「…………」
「神様は、一人一人の中にいらっしゃるんですって。絵や彫像のお顔が作り手ごとに違うのと同じで、私達の神様も、全く同じじゃない。私の中の女神様は、今もこれからも、リディ様のために生きる力を与えて下さる」
