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戦場のマリオネット

第4章 愛慾と宿怨の夜会


 アレットの胸の内には誰一人と気づかないまま、月日は流れた。

 彼女が十九歳になった一年前、海の向こうの王国から、ロランという青年貴族が招かれた。


 チェコラスでは、度々、公爵家主催の夜会が開かれる。
 舞踏会や音楽会と違って、恋人やパートナー、そして遊びや不倫の相手を求めて参席する貴族達が一定の割合を占める類の夜会で、アレットはロランと引き合わされた。


「いかがです、ロラン侯爵。アレット嬢の美しさには、貴族達も一目置いております。若さはもちろん、オーキッド伯爵家は文武に優れた由緒ある血筋でして、彼女も才気溢れた女性です」

「畏れ入ります、伯爵様」

「仰る通り、実に美しいです……。公爵様、私のようなよそ者を何故、彼女に会わせて下さったのです」

「ロラン侯爵が、少女のように可憐な美しさを持つ、且つ聡明な女性を好んでおられると小耳に挟んだからですよ」

「全くその通りでございます。……あの、アレット様。良ろしければ、庭を少しお散歩しませんか」


 顔合わせという見合いの場に、両親と居合わせていた私に、アレットが縋るような視線を投げかけてきた。しかし仲介役の公爵のいる手前、表立って彼女を引き止めることは困難だった。

 アレット達が退出したあと、私達は公爵の意向を聞くに至った。

 ロランは彼女の配偶者としておそらく相応しい男だが、彼女の意思も尊重したい。一方で、皇族家と遠縁の彼の国や彼自身の資産は魅力的なので、チェコラスがコスモシザに手をこまねいている今、国の将来は彼女の婚姻に委ねることになりそうだ──…と。

 アレットの見合い話を進めるか、コスモシザを手に入れるか。

 若く活力溢れた君主は、それらどちらかを選ぶよう、暗に私達に求めていた。

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