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戦場のマリオネット

第4章 愛慾と宿怨の夜会



 アレットが小柄な分、余計に恰幅の良さが目につく男の顔が、彼女に迫っていた。

 滅多に拒絶的な態度をとらない妹が、今にも男と唇が触れ合いそうな顔を逸らせて、その肩を押し返さんと力んでいる。


「アレット!」


 私は彼らの前に飛び出していた。

 ロランが驚いた顔を上げた直後、アレットが走り寄ってくる。


「お姉様……」


 震える背中に腕を回して、私は妹をあやしながら、異国の男に謝罪する。
 男慣れしていない彼女は、こうして抱きついてくるのも、昔から母か私にだけだった。怖がらせて結婚も出来なくなっては元も子もないから休ませに行って構わないかと問うと、ロランはその方便に納得し、私達は離宮へ向かった。

 城ではなく、既に大半の部屋が淫らごとの現場と化していた離宮へ場所を移したのは、アレットが二人きりになりたいと呟いたからだ。


 豪奢な空き部屋にありつけた私達は、内鍵を閉めるなり唇を重ねた。いつになく積極的に、大胆に、アレットが私を求めてくる。


「お姉様以外の人と添い遂げるなんて、死んだ方がマシ……。貴族じゃなくなった方がマシ。私やっぱり怖いわ。怖いの……」


 白く柔らかで小さな身体。

 女として同じ肉体を備えていながら、何故、私達はこうも課せられたものが違うのか。


 理不尽で不自由な女の定めを解放されている私が、アレットを救い上げるべきだと思った。

 コスモシザを君主に捧げれば、彼女の犠牲は避けられる。

 アレットを国に売らずに済むなら、きっと私は聖母の像を前にしていても、幾多の人間の心臓を顔色ひとつ変えず抉り取って握り潰せる。

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