
戦場のマリオネット
第4章 愛慾と宿怨の夜会
廃屋を出ると、月を護った星空が、夏の庭園に幻想的なハイライトを添えていた。月に照らされていると、リディ様に見つめられる瞬間を思い出す。
土の匂いが私にまとわりついてきて、風に乗ってどこかへたなびいていった。
「イリナ」
ラシュレが私の腕を掴んだ。
私は彼女と真正面に向き合って、清冽な翠の瞳に吸い込まれそうになる。
「コスモシザの城を落とす」
「何……っ」
「市民達の大半は、女神トレムリエを棄てた。軍隊も今は、君を失くした騎士団と、城の精鋭隊だけだ。君の国に未来はない」
「どうして……」
聞くまでもなかった。
私が抵抗を続けていた間にも、市民達は棄教を拒むだけで殺されていた。軍もほとんど残っていない。
それらはオーキッド夫人に見せられた新聞記事から知っていた。
「私達が何したの」
国の強化には、戦か婚姻が定法だ。
その単純な定法のために、何故、ただそこにいただけの市民や兵士が苦しみ喘ぐ?
ただそこにいただけなのに。
「何もしてないよ」
「…………」
「お前達は、何もしなかった。だから終わる。それだけだ」
「…………」
