
戦場のマリオネット
第4章 愛慾と宿怨の夜会
ラシュレの腕に抱かれた私は彼女の肩に頰を預けて、彼女の胸を剣に貫く想像を巡らせる。情け深いオーキッド夫人の油断をついて、彼女を人質にとってリディ様を奪回し、チェコラス重臣であるラシュレ達を惨殺する想像を。
情けなさすぎる。
私は、この屋敷に覚えがあった。たまにメイドの案内より先に、私はここの敷地を歩くことがある。オーキッド夫人が、何故か懐かしくなることがある。
よく似た屋敷、よく似た人を知っているのだと思う。昔、しばらく私は親族の屋敷に世話になっていたらしい。物心つくかつかないかだった頃でぼんやりとしか覚えていないが、あの頃優しくしてくれていた人が、彼女に似ていたのだろうか。
「リディ様……」
謝る資格もない。彼女のために、私は自分の手も穢せない。
「イリナ。私の愛人になれ」
私はラシュレの腕をほどいて、はっと彼女の顔を見た。
きっと私は酷い顔をしている。都合良く腕に抱かれて涙を堪えた目を隠していようと努めていたのに、彼女の言葉に弾かれた。
