
戦場のマリオネット
第4章 愛慾と宿怨の夜会
「軍は、コスモシザ側の人間を皆殺しにするつもりだ。イリナも、城が落ちたら生かしておく必要がなくなる。王と王妃は別の城に幽閉される、いずれリディも」
「…………」
「だが時間は延ばせる。私のものになれば、イリナのことは時間を稼ぐ。リディとも離れなくて済むように、何とかするよ」
これは罠ではない。ラシュレの言っていることは、本当だ。
直感したが、声が出ない。
リディ様の自由も関わるなら、私は頷かなければいけないのに。…………
ややあって、鈴を転がすような声と共に、足音が近づいてきた。
「あ、いたいた、お姉様……!」
こんな時間にやけに豪奢な格好で姿を見せたのは、オーキッド夫人によく似た二十歳前後の少女だ。長いストレートヘアを揺らして、彼女は私の姿など見えていないかのように、ラシュレに腕を絡ませた。
「今日はチェコラス公爵主催の夜会でしょ。一緒に来て下さるって仰ったのに、お姉様なかなかお見えにならなくて……」
「ああ、ごめん。えっと、……」
甘ったるくラシュレにすり寄る少女は、おそらく妹。
私はラシュレの視線を受けると、一人で平気、とだけ言い残して、オーキッド夫人の部屋へ向かった。
