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戦場のマリオネット

第4章 愛慾と宿怨の夜会


 公爵は、イリナを迎え入れることを快諾した。特に夫人は、コスモシザの芸術家達や採掘される石について、さっそくイリナに話を求めている。


「公爵様、私達はこれで」

「おお、すまないな。ゆっくりして行くのだぞ」


 私はアレットに腕を引かれて、イリナ達の元をあとにした。





 楽隊に拍手を送る貴族達の群れの中に、外国の盛装をした青年貴族の姿があった。

 アレットはそんなロランに目もくれないで──…厳密には、彼に見つかることを避けるようにして、可憐で清純な令嬢達の輪へ入っていった。


「ご機嫌よう」

「ご機嫌よう。まぁ、ラシュレ様、アレット」

「こんばんは、お二人でお越しになったんですね。いつも仲良くて羨ましいわ」


 このような場ではほぼ必ず顔を合わせる彼女達とは、あまりに畏まった挨拶は省く。アレットがさっそく友人達とドレスや化粧を褒め合う傍らで、私は別の令嬢と、やはり世辞の交換をする。


「ラシュレ様、先月は楽しかったですわ。今夜はもっと楽しみたくて、私、ここに来る前、東洋から取り寄せた石鹸をたっぷり使ってきました」

「どうりで。いつもより肌が眩しくて、空の真珠の明かりだけ盗んできたんだと思ったよ。今夜は月が綺麗だから」

「そんないけないこと、しませんわ。ほら、触ってご覧になって。何も隠してはいません」


 ターコイズブルーの姫袖から伸びた腕を捕まえて、私自身に引き寄せる。彼女に抱きつかせるようにして身体を密着させた私は、ダイヤモンドの小さな滝の流れる耳に唇を寄せた。


「君はさらってしまいたいほど可憐だ」

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