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戦場のマリオネット

第4章 愛慾と宿怨の夜会


* * * * * * *

 オーキッド夫人は私を連れ回し、養女を見せびらかしてでもいる調子で友人達に紹介した。

 優雅な見せかけに本性を隠した婦人達の連れの中には、見覚えのある顔もあった。紳士らは砦での一件を覚えてもいない顔をして、私を令嬢扱いした。
 彼らの気取った目の奥には、品のない、相手を見下すいやらしさがぎらついていた。誰もそのことには触れない。婦人達もだ。口先こそ好意的でも、腹の底では私を恨み蔑んでいるのが分かる。


「本当に美しくて賢いお嬢さんだこと。オーキッド夫人、彼女、メイドか下働きとして雇っておあげなさいな。コスモシザが敗戦すれば、今度こそ収容所に入れられてしまうでしょう」

「ええ。私、イリナは娘になって欲しいほど気に入っておりますの。彼女のことはちゃんと考えるつもりでいます」

「そうしてあげて頂戴。この間は見せ物で済んだかも知れないけれど、こんな年頃のお嬢さんがあんな公衆の面前で……」

「ああ、ごめんなさいね、イリナさん。貴女には辛い記憶だったわね。私達はただ、仮にも貴族の貴女が民衆にまで汚物を投げられていたのが、可哀相だったものだから」


 オーキッド夫人が私を庇うようにして、斜め後方へ下がらせた。

 私は慣れないパンプスに自分のドレスを踏みつけて、足をもつらせる。

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