
戦場のマリオネット
第4章 愛慾と宿怨の夜会
「あら、イリナさん貧血?」
「オーキッド夫人があんなに連れ回されるから……。私達、イリナさんを離宮で休ませて差し上げてくるわ。構いませんでしょう、夫人」
「では私が付き添います」
「いいえ。貴女ほどのご身分の方のためなら私達、いくらでも働きますわ。さぁ、イリナさん。こちらへ」
婦人達は私を押し出すようにして、その場を離れる。
オーキッド夫人の元に残った数人が、彼女を諭して引き止めていた。
城を出ると、それまでしおらしく私を押さえつけていた彼女らは、急に足の速度を上げた。
私の両脇はしかと固められていた。貧血の女を心配している振りをして、彼女らが獲物を逃すまいとしているのは明らかだ。
庭園を抜ける間中、私の胸はざわついていた。
ロカイユ装飾の巡らされた、滑らかな曲線が織りなす離れに着くと、彼女らは勝手知ったる足どりでアーチをくぐった。
どこか掴みどころのない、淡く軽薄な絵画や調度品が目を引く貴族趣味な回廊を、私は引き連れられていく。
一つの扉の前に来ると、婦人達が足を止めた。
「きゃっ」
突然、押し飛ばされた私は部屋に滑り込むようにして崩れ落ちた。
顔を上げると、室内には先客がいた。ローテーブルやソファが据えられて、ダブルベッドもある。
