
戦場のマリオネット
第4章 愛慾と宿怨の夜会
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先代のチェコラス公爵の姪に当たる公爵夫人は、まだ花盛りと言って遜色ない活力溢れる人物だ。
私室前に控えていたメイド達が扉を開くと、一国の領主の妃は花が綻ぶような顔を向けて、私を迎えた。
「ラシュレ……!来てくれたのね」
「お招き恐悦至極に存じます、チェコラス夫人」
「貴女にべったりくっついていらしたお嬢さん達が、お怒りだったでしょう。愛慾の恨みは食べ物の恨みより怖いと言います、人の性欲が睡魔を凌駕するのと同じ──…これは私だけかしら」
「いいえ。食欲も睡眠欲も、色事への執着には敵わないと思います」
深い黄金色の髪に、艶のある健康的な肌が、シャンデリアの光に引き立つ。あでやかという言葉は、この夫人のためにあるのだろう。彼女の目は開いているだけで秋波を送り、自然に上がった口角は高邁な余裕を讃えている。
良質なネグリジェの裾を揺らして、公爵夫人は優艶な動作で寝台に移った。
「来て」
私は夫人の指し示した彼女の隣に腰を下ろす。
差し出されてきた片手をとって、半透明の輝きをまとう爪の並んだ甲に唇を落とす。
「コスモシザへの最後の強襲、ラシュレだけが頼みです。どうかお願い致します」
二十一年前の侵攻は、未遂に終わった。
敗因は、チェコラスを迎え撃ったコスモシザの圧倒的戦力だけではなかったと聞く。当時、夫人は十一歳だった。
「ご心配はいりません、チェコラス夫人」
沈痛な面持ちを浮かべる彼女に、私は続ける。
