テキストサイズ

まこな★マギカ

第7章 第五ノ一章


「別にいつものことじゃねぇかよ、あんなの」と落ち着き払った様子の杏子。

確かに、杏子の言う通りだった。カナメは何故か杏子が店にくると決まってヘベレケになっていた。それも暴力的な早さで、だ。いったい、カナメの何がそうさせるのだろうか。

カナメの空になったグラスを見つめたまま呆気にとられていると、ふいに杏子が訊ねてきた。「て言うか、今日はマミの事を聞きに来たんだろ、ゆうき?」

「ああ、実はそうなんだ」

俺がこたえると杏子は目の前に並んだフードを顎でくいくいと指し示した。「まあ、その前にまずはこれ食えよ。腹減ってんだろ?」

「ああ、そうだな」俺はテーブルの縁に置かれていた割り箸を取り上げた。「ありがとな、杏子」

「何いってんだよゆうき。礼には及ばないぜ」

「じゃあ、いただきます」と杏子に言ってから、すぐ近くにあったミートソースのパスタに口をつけた。普段はそうでもないのだけれど、今日は悪魔的に美味かった。俺は一気にそれを平らげた。

「おい、ゆうき、そんな早く食って大丈夫なのかよ?」と不安げに杏子が訊いてくる。

「いや、全然平気だよ」とミートソースのパスタを頬張りながらこたえて、さらに「つうか、これも食っていいか?」とミートソースパスタの隣にあったペペロンチーノを指さした。

「ああ、もちろんだぜ。なんなら全部食っても構わないぜ」

「恩にきるよ、杏子」と言いながらペペロンチーノの皿を取り上げてそれをがっついた。食い終わるまでにたいして時間を必要としなかった。

そしてさらに「これもいいか?」とペペロンチーノの隣に置いてあったカルボナーラを指さしながら杏子に訊ねた。

笑いながら杏子はこたえる。「だから、さっきから良いつってんじゃんかよ」

先程食べた二品と同様にカルボナーラも勢いよく食べていると「ただひま〜」と言って、カナメが帰ってきた。手には何も持っていない。

そしてそれと同時に内勤のキュウべーさんが現れた。片手にビール瓶の二本乗った丸いトレーを持っている。

「あの杏子さん、少々失礼します」そう言ってキュウべーさんは丁寧にお辞儀をするとビール瓶をテーブルに置いて、空になった瓶と皿をトレーの上に乗せた。

それから俺の耳元に顔を近づけると、口元に手を添えて小声で言った。「ゆうきさん、そろそろ20番に行って貰っても良いですかね」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ