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まこな★マギカ

第7章 第五ノ一章


「え、まだいいっすよね?」とキュウべーさんに向かって俺は訊く。

「いや、そろそろ言って貰わないと――」

キュウベーさんが少々困惑気味に言っていると「ゆうき、行ってこいよ」と、それを見ていた杏子が俺に向かって言った。

「何から何まですまんな、杏子。またすぐ来るから」そう言って、俺は空のグラスを杏子のグラスにそっと当てた。

「カチン」となんだか鈍い音が聞こえてくると、俺は丸イスから立ち上がった。「じゃあ、とりあえず――ごちそうさま、杏子」

「おう――ゆうき、またな」

杏子が言うと、俺はくるりと向きを変えて8番テーブルをあとにした。



20番テーブルは、入口から見て右側の奥の角にある。席に向かって歩いている途中、俺はある事に気が付く。

あれ、20番ってそう言えば……。

なにせ、その席に行くのは随分久しぶりの事だった――と言うより、この店に入ってからまだほんの数回しかない。

パリナのホールは正方形に極めて近い長方形の形をしている。基本的には入口に近い席から順に反時計回りで1番2番と数字が大きくなっていくわけなのだけれども、その4つの角にある席はどれも一の位がゼロの数字、つまり10番、20番、30番、40番テーブルとなるわけだ。そしてそれは、この店である事を意味していた。

そう、つまり、VIPルームだったのだ――。

いきなり新規で来てVIPとは、どう言う事なのだ、とすぐさま疑問に思う。でも、わかるはずもない。まさか本当にClariSが来たのかよ、と一瞬だけそう思う。けれどもそれはもちろん一瞬の事だった。いったいどんな客が来ているのか。少々不安になりながらも尚もテーブルへと向かった。

ホールを歩いていると、あちこちで「いい波のってるねぇ!」と言うコールが飛び掛かっている。それに混じって笑い声や矯声が時折り耳を突いた。

そのさなか突然どよめくような歓声が聞こえて、咄嗟に俺はそのテーブルに視線を走らせるた。するとそこには、テーブルの前で仁王立ちして、ブランデーのボトルを片手で持って、さらにそれをラッパ飲みしている新人の姿があった。おまけにその新人は、半分程入っていたブランデーをものの数秒で飲み干すと、そのボトルを置くやいなや、チャリで来たポーズを決めたのだ。それを見て、周りにいたホストや客が又しても盛大に声を上げた。

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