先輩!彼氏にしてください!
第7章 天才の苦悩
「おつかれさまでーす」
「おつかれー」
秋の文化祭での話をし終えた後、星野くんも葵ちゃんも平井くんも気を遣ったようにすぐに部屋から出て行った。
ようやく二人になったあと、振り返った私は今にも飛びついてきそうな谷川くんに、「ひぃ」と声を上げながらのけぞった。
「せん…ぱいっ……」
「ちょっ……」
「大事な話って…なんですか?」
「ま、待て! そこから一歩も動くな! ステイ!」
私のいうことを聞いて、ピタリと動きを止めた谷川くんは、エサを待つペットのようにまだかまだかと期待の目をしながらこっちを見ている。
「いよいよ……僕を…彼氏にしてくれるんですね!? 大事な話ってそれくらいしか────」
「───── ちがーーう!! 静かにして!」
谷川くんのトンデモ妄想を止めると、谷川くんは、はぁ…とため息を吐いた。
「………違うのか…はぁ…ほんと、ほのか先輩ったら焦らすんだから…」
「私が聞きたいのは、絵のこと!」
「絵………?」
「そう! 早坂先生が困ってた。すごくいい作品なのに谷川くんがコンクールに出すのをやめるって言ってたって」
私の言葉に、谷川くんは片手で自身の首元を触ると、「そんなことか…」とぼそっと呟いた。