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仔犬のすてっぷ

第18章 来訪者たち



「・・・ま、何事も無くって良かったよ」

 着替えてすっかり元の〈店長〉スタイルに戻った森川店長は、自分が倒した三人を見送りながら苦笑いした。

「数だけ揃えて来たって感じだったからな。
自分達の行動に酔っていた時が狙い目だった訳さ」

「・・・で、本音は?」

 どこからか取り出したマイクを歩美さんが店長に向けると


「ざまあ見さらせ!俺の事を三流扱いしやがってあのクソアマ!」

 中指をびしりと立てて勝ち誇るその横を、里香が警官二人に連行されるという…なんともシュールな絵に、僕はただ苦笑いするしかない。


「言っとくけど、これで終わりじゃないからね・・・」
「貴女も道を間違えたわね・・・」

 歩美さん・・・幸お姉ちゃんに吐き捨てるように言った言葉に、彼女は少し悲しそうに返す。


「桜明なんかにいいように使われて、楽しかったの?」

「・・・アンタには分からないわよ。多分、一生ね」

そこまで話したあと、強制的に警官に引っ張られ里香は店の外へと消えた。





「・・・・・歩美さん・・・幸お姉ちゃんだったんですね。判りませんでした……」

「優ちゃん・・・今まで黙っていてごめんね。私には、名乗る勇気は無かった。
バレ無ければそれで良いとさえ思ってた・・・
それが事実よ。言い訳はしないわ」

「正直…驚きました。けど・・・僕は、もう一度会えた事が、嬉しいです」

 眼鏡をかけ、黒髪の三編みだった幸お姉ちゃんは、今はコンタクトして、栗色のロングヘア。
化粧もしていて、あまりあの頃の面影はないから多分・・・里香が現れて正体を明かさなかったら今も、この先も…僕はきっとサチお姉ちゃんだとは気が付かなかっただろう。



「・・・あの時の事は、私も悪い事をしたんだと……今でも思っているわ。ある意味、あの二人よりも私が悪いのかもしれない……
私が、優ちゃんが欲しい、なんてあの二人に言っちゃったから・・・」

「そんな事はありません。サチお姉ちゃんは悪くない!あの二人だって…
あの日、僕が・・・あの誘いに乗らなかったら…きっと、あんな事しなかったに違いないんだ」



「・・・ “たら、れば” 論に終わりは無いぜ?優希」

ずっと僕の隣で話を聞いていた蒼空が、僕の肩を軽く叩いた。



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