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仔犬のすてっぷ

第19章 過去との再会



「あれは特別なモノじゃない。誰にでもある、他人を思いやる心です!」
「私はアナタに、また救われたいの!アナタじゃなきゃ、私は……」
「僕では貴女は救えません!僕じゃなきゃいけないなんて・・・」

「あの時、あの後……私は中学女子最高のタイムを出せた。力を出せたのよ!
あの時の輝きが、また、欲しい!解ってよ!!
優しく、励まして、私を奮い立たせてよ!」

 吊るされた僕にがっしりと抱きつき、まるで神様にでも強請るかのように懇願する彼女。
どんなにお願いされても、答えは決まっている。


「……無理です。僕は貴女の力にはなれない…」

そう、答えを返した時だった。
耳元で囁く彼女の声に、僕の何かが反応した。




「…《あなたは、私のモノ。誰にも渡さない》」



・・・ドクン・・・・・・


彼女の言葉に、まず心臓が反応した。


「え・・・?」

「《アナタは、私のモノ。誰にも渡さない》」



・・・ドクン・ドクン・・・・・・


「あ・・・?な・・・??」

ーーー フッ…

急に僕の身体の力が、何かに奪われたかのようにすとん!と抜けた。




「《アナタは、私のモノ。誰にも渡さない》」


・・・ドックンっ!

胸の奥が…丹田の辺りが…じわ〜〜…んと、熱くなってくる。



「…な、なに…?コレ・・・」

身体の異常事態に、僕の頭はついて行けない。


「気を失っている間に、媚薬を飲ませた…なんて事はしてないわよ?トーマスが変な事アナタに言っちゃうかもしれなかったからね」

 強く、強く僕を抱きしめたまま…明美さんはクスクスと笑いながら話した。



「思い出さない?あの時、アナタ…記憶が途切れ途切れになってたりしてたでしょ?
私の暗示にかかっていたからよ」


あ…暗示……?
そんな事…簡単にシロウトができるはずは……


「優希……私の眼を見てごらん?カラコン、何色かしら?」

…か、カラコン?何もつけてな・・・




「《アナタは、私のモノ。誰にも渡さない》」

「あ…」



明美さんの瞳の奥が、妖しく光っていた・・・。



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