
仔犬のすてっぷ
第30章 共振
「………いけませんねえ……人の特技を勝手にばらしてしまうのは。私の仕事がやり難くなるじゃないですか…」
「お前の仕事?お前が請け負ったのは、そこの嬢ちゃんをここへ連れてくる事だけだろ?」
サラさんの攻撃を避けながらも、自分の相方へ攻撃するのは流石に躊躇いがあるのか……
払いはするが、打撃できそうな状況になってもトーマスは自ら手を出そうとはしない。
「ええ。確かにそこのお嬢様からはそのような依頼を受けましたが、結局それは貴方がしてしまいましたからねえ……後は守備役にまわされてしまい、いささか遊び足りないんですよ」
「……聞き捨てならないな…俺じゃ役不足だったってか?」
森川店長が龍節棍を肩に担ぎ、飄々と話をする霧夜を睨みつけた。
「お前さんの手品のタネは、もう分かっているんだ。次はさっきのようには行かないぜ?」
「……そうですねぇ…それも悪くないですが…貴方の出し物もネタ切れしてるんじゃ、ないですか?
私の手品が通用しないように、その玩具の攻撃も、次は私には通用しませんよ?」
「・・・それでは僕が貴方のお相手をしましょう。僕は彼ほど犯罪者には甘くはありませんよ」
二本の大きな剣を構えたカリームが霧夜に向かって歩み寄る。
…が、霧夜は彼を見ないままぼそっと呟き、それを聞いたカリームがピタリと動きを止めた。
「……私の術はそんなに簡単には防げません。一瞬でも私と眼が合えば簡単な術なら一撃なんですよ、金蔓の王子様★」
「・・・かっ……体が…動か、ない?!」
「…それに、貴方を迂闊に傷つけてしまうと、のちの身代金請求に影響してしまうかもしれませんし……王子様には少し大人しくしていて頂きましょ…うおっ?!」
カリームを値踏みするように見ていた霧夜が、一オクターブ高い声を跳ね上げ体をねじる。
「あっ…危ないじゃ、ないですかっ!」
体を必死にねじってまで避けたのは、蒼空の放った回転脚だった。
霧夜の頬を掠め、ギリギリのところを蒼空の右脚が通過する。
「……テメェ…さっきから自分勝手に話を進めてるんじゃねえよ」
