
仔犬のすてっぷ
第5章 他人と自分と
「……ったく。」
テーブルの上に、合鍵が6本ずらりと並ぶ。これだけの数の、同じ部屋の鍵が並ぶのは、ある意味壮観だ。
「蒼空、合鍵を無断で作っちゃ駄目だろ!コレだって立派な犯罪になるんだ。分かるかい?!」
蒼空は、正座して小さくなってしゅんっとしている。まるで叱られている仔犬みたいに縮こまっていた。
「ご…ごめん……」
「ま、まあ…今回は初犯だし…この部屋を直す代金はほぼキミんトコのオーナーさんが払ってくれたし………
それに免じて、今回は許してあげるけど、次は無しだから。解ったかい?!」
「もっ…もちろん、しない!しないからっ!!」
正座したまま、頭を下げてヘコヘコ謝る蒼空を見ていると、なんか怒りが笑いになりそうで…
カッコいいやつが、なにをやっても画になるとはよく言ったもんだ。
(まあ、この場合の“画”は、笑いに傾いていたけど(苦笑))
「ところで、優希…」
僕のお叱りモードが解けたとみるや、素早く正座を崩してあぐらをかく蒼空。
まあ、正座よりコッチの方が楽に違いないが、足を痺らせている様子はない。
「さっきのテレビさあ……アンタ、なんかあったのか?」
さっき……学校の先生が子供にわいせつ行為をはたらいた、ってやつ?
「なんか…って、なんだよ?」
僕は洗い物をしながら、素っ気無く対応しようとしたが……。
「いや、さぁ…あのニュース……
テレビ見てる時の優希の〈眼〉が、ちょっと気になってさ……あの時だけ、なんか眼の色が違ってたからさぁ……」
(・・・うっ……す、鋭い。なんて観察眼してんだ?!)
僕としては、いつも通りに聞き流していたつもりだったのに…なんで分かる?
「いや…子供の頃に、仲の良かった友達が、同じ目に遭って、さ。」
……これは、嘘だ。
そんな目に遭ったのは僕自身。
相手は先生では無いし。
事件とかにもなってない。
けど、その後の僕に影響を与えているのは確かな事で・・・。
