
仔犬のすてっぷ
第32章 決着
「……さてと、憂さ晴らしはこのくらいにして…」
ヒクヒクと痙攣している哀れな悪役の彼を放り投げ、トーマスがこちらを見た。
「早いところその嬢ちゃんをなんとかしないとマズイな。残念ながらコイツは解毒剤の類を持っていなかったから、治療するには……男性の “精液” が必要なんだが……」
・・・え゛?
せ…せいえき??
「こんな時に…そんな、冗談は……」
「冗談とかじゃない。アイツをタコ殴りにしながら色々聞いたんだが…
奴の話によれば、薬の解毒には異性の体液を粘膜を通して吸収させるからこそ、この薬で侵された人間を意のままに出来るようになるらしい。
そっちの嬢ちゃんが向こうの世界で言いなりにされたのはそういう経緯があったかららしいんだ」
……つまり、セックスすることで相手を操れる…?
な、なんてご都合主義全開の薬なんだ……。
それじゃ、今の奈緒ちゃんと、しちゃったら……
『…ご主人さま…♡私を好きにしてください…』
そう言いながらにじり寄る奈緒ちゃんを想像してしまったところでトーマスからツッコミが入った。
「嬢ちゃんも男の子なんだなぁ…まだ、ラビットの力で繋がってんだから、今の妄想は俺と坊主に筒抜けだぜ?」
あ゛・・・
蒼空の鼻から赤い筋がつつ〜…っと垂れた。
「おま…コレって、つまり…」
“役得”ってやつなのではっ?!
僕と蒼空の頭上に、メイド服なんかを着込んじゃった、妙に色っぽくなった奈緒ちゃんが浮かぶ……
「あ、そうそう。残念ながらその嬢ちゃんはそんなふうにはなんないからな?薬は半分しか無かったんだ。そこまで強力な効能は期待できないと思うが?」
……そ、そうなんだ?
なんか、安心したような、残念なような…
…って、何考えてんだ、僕っ!!
「…どっちにしても、ヤル事はやらないと……いけないん……だよね?僕なんかで…良いのかな?」
…そりゃあ…奈緒ちゃんと付き合うって事はいずれはそうなるかもしれなかったんだけど……
「…それは、やっぱり優希の役だと思う。いや…お前しかいない」
……蒼空の眼が、僕の心を後押ししてくれている。
不本意かもしれないけれど…僕が……。
