
仔犬のすてっぷ
第32章 決着
「…とにかく、急ぎましょう。このまま警察がなだれ込んできたら、彼女と君の体のケアどころじゃ無くなってしまいます」
そう言うと、カリームはインカムに向かって何かを話しだした。
「後5分ほどで警察のヘリを誘導しているラシードのヘリが到着します。外へ出て待ちましょう」
警察だって馬鹿じゃない。地上の様子がおかしいことを察した彼らは航空隊に要請し、地上を見張らせているはずだけど…ラシードさんはそれらを誘導し、何台もの偽装ヘリを使って撹乱し、ここへ近づけないようにしてくれているんだ。
しかし、それも限界に近い。
「…んじゃ、俺らもぼちぼちずらかりますか?厄介事はもうゴメンだからな」
以前警察署でこってり絞られた森川店長は苦笑いしながら外を見た。彼も今回は逃げる腹づもりらしい。
「はい。後のことはうちのラシードがすべてなんとかしてくれます。彼には悪いですが…」
そう言うと、カリームはダンボールと木箱の山からアキラによって担ぎ出された明美さんを見た。
「彼女にも……お気の毒ですが、首謀者としての責務は果たしてもらうことになるでしょう。
いくつか刑が科せられるでしょうが、うちのオーナーと僕のつてで弁護人やその他は揃えられますし、実際に犯した犯罪はそんなに大きいものはありませんから…すぐに出所出来るはずです」
……暁美さん……。
ごめんね。僕は、僕のままで居たいんだ。
頭から血を流し、気を失ったままアキラに抱きかかえられている彼女を見て、僕は少しだけ胸が痛かった。
……もし…僕が断らなかったら…彼女は幸せになれたんだろうか?
タラレバ論に終わりは無い事は分かっているけど…僕の所為で、彼女は変わってしまったのだということは忘れちゃいけない……よね?
「…優希?」
ラビットでの繋がりは切れたのか…僕の考えている事は伝わっていない蒼空が、心配そうな顔で僕を見る。
「…ん?あ、な、なんでもないよ大丈・・・」
ーーー ガアアアアァン!!
僕の言葉を遮るように、突然背後で大きな破裂音が響いた。
