
仔犬のすてっぷ
第6章 優希の経験
「いらっしゃい☆よく来てくれたね」
夜の中学校のプールは、小学校のそれよりとても大きく見えた。
ただ、ちゃんとライトが照らしていて、無断で使ってないのは分かり、それは安心出来た。
「私、こう見えて水泳部のエースなんだよ?県大会1位。すごいでしょ?
だから、私が先生にお願いすれば、夜でも使わせてもらえるんだ♪」
アケミお姉さんと、あと二人はいたけど、夏美お姉さんは見当たらない。
「夏美は、水泳部じゃないし、今はいないけど…一時間練習が終わる頃に、花火を持ってきてくれるって。楽しみだね♫」
「うん!みんなで花火…楽しそう」
(夏美お姉さん、ちゃんと後から来るなら大丈夫だね)
アケミお姉さんは、確かに教え方が上手だった。
120センチしかない僕は、中学生が使うプールでは立っても、顔が水面から上には出ないため呼吸が出来ない。
息を吸うために顔を水面より上に出すためには、立ち泳ぎが必要だった。
…けど、泳ぎ下手な僕はそれが出来ない。
このお姉さんは、最初に平泳ぎを教えてくれた。
バタ足クロールしか出来なかった僕は、十五分後には平泳ぎが形になるくらい、解りやすく教えてもらえた。
「そう…上手よ優くん。そうやって、手と脚で水を掻くイメージで」
そのカエルの脚を、立ったまま早目に出せば、バタ足じゃなくてもその場で立ち泳ぎになったから…教えてくれる事には間違いは無いみたいだ。
「凄いじゃない。こんなに早く覚えたなんて…きっと、水泳教室の先生も驚くわよ〜?」
僕は得意気に平泳ぎで25メートルを泳ぎ切り……さらに褒めてもらって本当にうれしかった。
「・・・さあ、体を動かした後は水分補給しなきゃ。スポーツドリンク持ってきたから飲んでおいてね♪」
ノドが渇いていた僕は、言われるままそれを飲んで……。
ベンチに座って休んでいるうちに、いつの間にか眠ってしまっていた・・・。
