
仔犬のすてっぷ
第9章 僕等と一緒に
「……ねえ?蒼空さん、優希さん?」
メロンソーダを飲みながら、結さんが僕と蒼空を、交互に見て、首をかくっ☆と傾げる。
可愛くて美人がこれをやると、それだけでほわ~んとした気分なって幸せになるから不思議だ。
「…優希君がそんな顔するのも珍しいな」
「…僕だって、男のコなのだよ、蒼空君」
「この後、お二人でお泊りですかぁ?」
………は?
あ、いや、まあ、たしかにココは “◇島温泉” とあって、ちゃんと温泉付きホテルはあるケド……
「ここ、夜は花火大会もあるからって先輩が、お部屋取ってくれてるんです♡
浴衣も二人分、ちゃあんと用意してきたからぁ…私、もう、楽しみで♡♡♡」
両手のひらを合わせて顔の横に持ってきた結さんは、夢見る乙女のように目をキラキラとさせながら明後日の方を見た。
見事にご自分の世界に行ってらっしゃる顔ですな、これは(苦笑)
「……優希と……浴衣姿……花火大会……お泊まり………あ゛」
「…はい★ティッシュ」
こちらは蒼空が御自身の世界に突入する一歩手前でのお約束(鼻血出し)を果たし、僕は慣れた手付きでポケットティッシュを差し出した。
「ゆ、優希っ!ゆかた…」
「ありません」
「はっ…はなびたいかい」
「見る予定はありません」
「お、おとまり、ほてるのよやく…」
「しておりません」
「ゆ、ゆうきぃ〜〜〜ぃ」
「…仕方無いだろ?
前もって計画してきた訳じゃないんだから、昨日の今日での予約は無理だよ。人気イベントなんだし」
「せっかく来たんだから、花火大会見てから帰ったら?」
テーブルの上でうつ伏せて、涙を流す蒼空を哀れに思ったのか、里美さんが1つの提案を提示する。
「そうしたいところなんだけど、ここ(長◑)は、輪中の孤立した中洲にあるから、帰りの車の渋滞が橋で詰まって半端じゃなくてね。1号線や湾岸高速も渋滞しちゃうから、花火大会始まる前に帰らないと、家に着くのが真夜中越えちゃうんだよ」
「…説明的なセリフ、どーもありがとよ〜優希ぃ……」
「……二人共?良かったら、私が口利いてあげよっか?」
里美さんが、スマホを取り出してこちらを向いた。
