
仔犬のすてっぷ
第10章 JAZZと夢と、その裏に
撮影会(?)は、一時間半ほどで終わった。
出来上がった写真はどれも素晴らしく、全部欲しかったんだけど……。
「1人1枚?」
「…いま、お渡しするのは、お一人様1枚までにお願いしたい」
さっき僕等を撮っていたおじさんが、僕らに頭を下げてきた。
「後から残り分は送らせて貰いますが、なにぶんこの後花火大会の撮影現場のセッティングもありますので…」
あ、そうだよ。
撮影ですっかり忘れてたけど、花火大会があるんだった。
「あ、私、コレが良い♡」
モニターを覗いて結さんが選んだのは、さっき撮影風景を見た時の……
二人で手を合わせて微笑んでいるやつだ。
確かに…これ、僕も欲しいかも?
「優希ぃ…鼻の下、伸びてんぞ?」
蒼空に指摘され、僕は慌てて鼻の下を手で覆って隠した。
「私は…これかな?」
女子二人がベンチに座り、左右に僕と蒼空が立っている、オーソドックスなやつだ。
「やっぱり、記念だからね♪」
うん。コレもみんなが自然な顔で笑っていて好きな構図だなぁ。
「…じゃあ…僕はこれにしようかなぁ?」
さっき、蒼空に肩車された時のやつ。
半分怒って、半分驚いている顔の僕と、僕を担いで嬉しそうな顔で笑いながら僕を見る、蒼空。
(この時……蒼空の奴、こんないい顔してたんだ…)
「やっぱ、俺はこれ♡」
「え?!きゃー!なにこれ?!かわいー♡」
「ああっ?!いや〜!これ、可愛すぎ、ずっる〜い♡」
モニターの一番下にある映像を見た二人の女性は黄色い声を跳ね上げ、僕は真っ赤っ赤になって俯く。
その映像とは
ぼ、僕の……
バニーな浴衣姿。
赤いうさミミ
白地に桜を散りばめた控えめな浴衣
赤紫色の帯、ピンク色の飾り布
黒に近い濃い紫色のタイツ
木色の花尾の白い上げ底の草履
完全に女性物なのに、蒼空のひと押しでカメラマンまであっさり承諾し、ノリノリで撮ってくれやがったやつだ。
「わが人生にぃ、悔いは、な〜しっ!!」
ガッツポーズで空を見上げる蒼空に、なぜか周りでモニターを覗いていたカメラスタッフと店員達がパチパチパチと拍手を贈っている。
・・・僕の人生には
悔いが残り過ぎやしないかい?コレ・・・
(泣)
