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仔犬のすてっぷ

第10章 JAZZと夢と、その裏に


 花火大会の会場は、僕等が向かった頃にはすでに人混みでごった返していた。



「あちゃー。開催一時間前で、こんなんかぁ〜(汗)」


 内堤防の傾斜に、ホテルで宿泊者に配布されていた一人用のゴザをそれぞれが敷いて、なんとか四人が座れるスペースを確保する。


「こりゃあ、花火が始まる頃には身動き取れなくなるなあ・・・
手洗いとか、飲み物や食べたいもの…今のうちに手を打っておかないと……」


「…じゃあ、俺はちょっと飲み物買ってくるわ。みんなお茶でいいか?」

 蒼空はそう言うと、堤防の傾斜を駆け下りていく。


「…じゃあ、私、食べるもの買ってくるわ。定番だけど、タコ焼きでいい?」

「あ、はい。ありがとうございます」
「お礼はいいから。じゃ、ちょっと行ってくるね」

里美さんはそう言うと、ゆっくり斜面を降りていく。

……そして、結さんと僕がここに残った。




「優希くん…ひとつ、聞いていい?」

「うん。なに?」

「蒼空君の事……優希くんはどう思ってるのかな?」

僕は思わず結さんの方を見た。
結さんも、僕をじっと見つめている。



「どうって・・・大切な、トモダチ…かな?」

合鍵を預けられる、弟みたいな、友達?
なんか…少し違う?
うーん…上手く言えないかも……(汗)



「蒼空くん……なんか、昔の私みたいな匂いがするの」

「昔の……?結さんと、同じ?」

「そう。里美センパイに憧れて、大好きで、恋い焦がれてた頃と同じ、ニオイ」

結さんはニッコリ笑うと、蒼空が走って行った方を見た。
僕もつられてそちらを見たけど、沢山の人達に紛れた蒼空を見つける事は出来ない。


「多分、優希くんも蒼空くんも気が付いてると思うんだけど……
私達、付き合ってるの。女の子同士で」


・・・ま、まあ…なんとなくは、そうじゃないかなぁと思ってはいたけど……

それをカミングアウトしてくるって…?
何を僕に話そうと……してるのかな?


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