ぼんやりお姉さんと狼少年
第23章 秘湯での秘話
そういえば二ノ宮くんは迎えに来てくれた私にも、朱璃さんからの扱いが酷いと愚痴っていた。
私から見れば彼はあんなに体力があるというのに、狼社会って厳しい。
頑張って強くなるんだよ。 そう心の中で応援をしておいた。
伺ってくる人(狼)たちとひと通りの挨拶を済ませ、めいめいが飲食を楽しみ雑談に興じるようになった頃。
朱璃様が横目で私を見て訊いてきた。
「なんだ真弥? さっきからキョロキョロと落ち着かないようだが」
「朱璃様……あの私、少しだけ雪牙くんのお見舞いに行ってきてもいいですか?」
実はいうと、私を庇って怪我をした彼の所へ、本当は着いてからすぐにでも行きたかったのだ。
「ああ。 あれもお前に会いたいだろう。 まだ立ち上がるまでは早いからな。 食いしん坊は相変わらずなんだが。 どれ、それなら料理を持って行ってやるか」
「私も手伝います」
すぐに戻るよ。 朱璃様が周りに声を掛けて立ち上がり、背後にある枝分かれした通路へと向かう。
私がそれに続き、歓迎会の席で傍にいた伯斗さんも後からついてきた。
人二人分程の狭い通路は辛うじて地面を歩けるだけのぽつぽつとした灯りだけが点されている。
「私や息子たちの依拠はこの道にある。 覚えとくといい」
通り過ぎた途中に幾つか、部屋に繋がる木戸があった。
ここでいう、一番位の高い者が住まう場所にしては失礼ながら質素なものだと思う。
贅沢は好まない、先程お風呂で朱璃様が言っていたとおりなんだろう。
誰に対しても偉ぶらない、琥牙たち兄弟の性格を思い出しても合点がいく。
『………俺に逆らうって意味分かってんの?』
反面、冷たい目をした『あの狼』が頭によぎり一瞬寒気がした。