ぼんやりお姉さんと狼少年
第23章 秘湯での秘話
再び広間に向かう途中で、朱璃様が済まなそうに言ってくる。
「気を使わせて申し訳なかった。 身内だから目が曇るのかねえ。 雪牙はなんにも知らないんだよ。 先程話したような、琥牙が昔にした事もね」
「良いんです。 身内だから辛いのでしょう。……朱璃様も」
だから言えないし、聞けないのだろう。
継母と継子、義兄弟という立場ではあっても。
「私はあれには弱いんだよなあ。 決して二人を贔屓して育てた訳では無いんだが。 雪牙の実母は病で亡くなったんだが、それを看取ったのは私でね。 人でも獣でも、思いってのは本当に肩が凝るもんだ。 真弥が戻るのはいつだい?」
「お邪魔でなければ連休終わりの明明後日を予定しているつもりです」
翌日からはもう仕事なのだが、元々ここの滞在に連休を使うつもりでいた。
「そうか。……明日の昼は一緒に食わないか? ああ。 興味があるのかは分からないが、ここの上、入口近くの崖の方向にはうちの始祖の墓がある。 あそこは一等景色が良いから散歩がてら行ってみるといい」
「そうなんですか!? 是非、行きたいです!」
思わずその場で飛び上がって喜び、低い天井でしこたま頭を打ち、うずくまってしまった。
なんだそのリアクションは。 そう呆れつつも心配してくれる朱璃さんと、もう慣れて冷静にこちらを眺めている伯斗さん。
「それでは明朝でも私がお連れしましょう」
「…………」
痛くって話せない。
琥牙に対してもなんだけど。
前から感じてたけど、伯斗さんってちょっとマイペース過ぎるとこがあるんだよね。
……私の自業自得なんだけどさ。