ぼんやりお姉さんと狼少年
第35章 確かにある意味アイドル
「上を抜いた強さの序列は叔父さんが里ん中じゃ一番じゃないかな。 今は」
「…………」
上。
里の序列は始祖のその直系が一番。
もしも琥牙より卓さんが強かったら、そしたら序列は変わる?
ちょっと嫌な想像をしたけど敢えて口には出さなかった。
二ノ宮くんら二人は里の群れの中に入る選択をした。
今さら下克上なんて、そんなこと。
「桜井さん?」
直系……そもそも、里のリーダーはなぜ必要か。
領地を犯そうとする者から守るために。 琥牙が前にそう言っていた。
考え込んでいる私を二ノ宮くんが不思議そうに見ている。
彼はレストランでなんて言ってた?
『なんてったって、琥牙さんは俺たちの』
「二ノ宮くん、あのさ」
「うん?」
「今の里のリーダーって?」
「は? 何言ってんの。 こないだ人狼としては最低限成長した琥牙さんでしょ。 近いうちに里に戻る筈だよ。 桜井さんもでしょ?」
「────そう……だね」
うっかりしてた。
そうだ、その前にそれを忘れてた。
というか、琥牙ってば、なんでそんな大事なことを話さなかったの?
彼の中に住んでるあの里の景色。
最近ぼんやりと外を眺めている、あの視線の先はどこへ向かってた?
私の気持ちは分かってくれてると思う。
里から離れる理由なんてもう無いはずだ。
『もう少し、時間をくれる?』
何のために?
「あーあ、真似事かあ。 だからあん時向いてないって断ったんだ。 そもそも俺らの実戦って趣味やスポーツじゃないもんな。 でもそうバッサリ切られちゃうと、痛いよねえ……」
彼が大事なことを黙ってる時には理由がある。
大概重大で、大概私や他の存在のため。
彼の周りで何が起こってるの?