ぼんやりお姉さんと狼少年
第36章 役立たずな言葉、饒舌な体*
どう切り出せばいいんだろう。
上手な言い方がちっとも思い付かない。
裏庭で二ノ宮くんと別れたあとに、のろのろと階段をのぼる足は牛歩のようで、ただ私は怯えていた。
知らないフリをしていたらやり過ごせるんだろうかとか、収まるべきところに収まるのかとか。
むしろその方がいいのかもしれない。
世の中杞憂なんてことも多々あるしね。
「───────」
そんな風に振り切ろうとしかけて玄関に入り、床に置いた片手にスマホを持ったまま、またぼうっと夜の闇を眺めてる琥牙を見たら、途端に臆病風が吹き出した。
ただいま、そう声をかけるとふと彼がこちらを向く。
だって琥牙が私に気付かないなんてない。
「お帰り。 彼の肩、平気だった?」
「……知ってたんだ?」
「あそこまで日頃から傷めてると骨格自体が変形するから。 近くでやると服の上からでも気付く」
「案外、意地悪なところあるんだね」
そうかな、分かりやすく彼の急所教えたつもりだったんだけど。 そう言ってちょっと考え込む。
窓辺に座ってもたれてる琥牙に近付き、その両肩に手を置いた。
「真弥?」
屈んで、耳元に唇を付ける。
髪の先から乾いた外の匂いが鼻先をくすぐってくる。
訊いたら、どこかに行っちゃう?
泣きそうになったら、出て行く?
引き止めたら、会えなくなる?
またあんなのはやだよ。
「琥牙」
それとなく、なにか心配ごとない。
そんな風にさらりと聞ければいいのに。
喉がつっかえたみたいに、言葉が出てこない。
「……好きだよ」
この先の言葉が見付からない。
「どうしたの? なんか……ちょ」
着てる彼のシャツに手を滑り込ませて、その胸に触れる。
なだらかな弾力のある筋肉と、まるで女性みたいに綺麗な肌。
あんな力がどっから湧いてくるんだろうといつも不思議に思う。