ぼんやりお姉さんと狼少年
第38章 不倫、バトル、なんで恋? 前編
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私の所からみて、階段を一つ上がった上のフロアが、二ノ宮くんがいる部署である。
琥牙には内緒で、ちょっとだけ彼と話したかった。
かといって、共通の知り合いがいる訳でもなく、平日に二人っきりで飲んだりするのは少し抵抗があった。
私には琥牙がいるし向こうは一応は、男性なわけだし。
それで今日の私は届けものやら何かにかこつけ、自分の部署から頻繁に三階に行ってるわけだけど。
「やっぱり偶然を装ってばったり会って、自販機でコーヒーでも、みたいなのはないよねえ」
いくら同じ会社といっても。 そう心の中で呟いて閑散としたデスクが並ぶ彼の部署をちらと目をやったあとに、廊下の向こうに────────運良く彼らしきターゲットを発見した。
「おーい、に」
こちらの呼びかけもむなしく彼が入っていったのは、ミーティングスペース内に奥まった、比較的少人数向けの一室。
ただし彼と同じ人事部の課長(女性)と。
こんな時間から二人で会議? そう思い、スマホから社内のイントラを覗くと、課長の名前で確かに会議室には予約が入れてある。
そこに、二ノ宮くんの名前は無い。
うちの会社、結構手続き関係は細則まで煩いのよ。
なんとなく引っ掛かり、隣の資料室のドアをこっそり開けて、周りを見渡し人が居ないのを確認してから中に入った。
雑多な資料室には小さな明かりがあるが、それを付けると廊下に光が漏れる。
長い時間こんな所を使ってると思われたら怪しまれるだろう。
暗い中をそのまま入口から壁際づたいに歩き、隣の会議室の様子を伺ってみた。
直後、ドン! という向こうの壁に、何かがぶつかってくる音がした。
そこから聞こえてくる、クスクスと笑う声。
『……────────ァあンッ……』
のちにしばらく、押し殺したみたいな女性の、アノ声。