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ぼんやりお姉さんと狼少年

第39章 不倫、バトル、なんで恋? 後編



と、そのとき。


岩場の反対方向、崖を隔てるガードレールを越えて現れたかたまり───────それが空中で二つに別たれて、ヤッ!!っという女性の声が狼の一方に襲いかかった。

咄嗟にそれを交わした狼の傍で反転し、山になった草場に腕をついて小柄な体を着地させる。

もう一つは甲高い獣の悲鳴と共にガードレールの端にもつれ合う。


分断されたそれらに目を開いて、考え無しに私は思わず叫んでいた。


「伯斗さん、と朱……!?」


「真弥。 久しいなあ? 元気だったか」


そんな朱璃様の呑気な声とは場違いに、咆哮と共に即座に彼女に向かっていこうとする狼。
だが中段に構えられた彼女の手に持っている槍が、その動きを阻めた。

槍というからには真っすぐに突くのかと思いきや、途中でしなるような動きだった。
彼女が今手にしているのは、以前里で見た練習用の布で巻かれた棒のような槍とも異なり、私の背丈ほどの長さで刀身がついたもの。


「伯斗。 確かこやつらは、うちの者だったよなあ」


再び飛び上がり相対する相手と距離を取っている伯斗さんがそれに答える。


「ですね。 今は月のせいもあり、一時的に言葉も忘れる位に興奮しているようですが」


牽制の構えを取っていた朱璃様が腰を据え、片手を上げて前に進み出たかと思うと、狼の体の中心を避け、三度標的に向かって突きを繰り出した。

苦痛の吠え声と同時に槍を引き、ゆっくりとした動作で次は伯斗さんが相対している側へと狙いを向ける。



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