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ぼんやりお姉さんと狼少年
第39章 不倫、バトル、なんで恋? 後編
右往左往しながら詰めては逃げる獣に対し、朱璃様は最小限にしか動いていない。
鋭く長い刀身と柄を持つそれに、狼はありったけの警戒を持って敵の懐に入る隙を伺っている様子だった。
「ふむ。 こういう時の狼は力技では骨が折れる……そこの、突っ立ってる人間!」
「は………俺?」
浩二が我に返ったような顔をして自らを指差した。
「加勢せよ。 そんな恵体で、か弱い女を戦わせるつもりか?」
「いや全然余裕そうに見えるけど……てか今度はなにこの、異様に戦闘力あるコロボックル」
朱璃様のそれが今度はヒュッと空を切り、倒れている二ノ宮くんの方向を真っすぐに指した。
自在に闇の中に銀の流線を描く槍の穂先、それは朱璃様自身の、しなやかに流れる五体の動きに支えられている。
柄に添わせた小さな指先さえも、自らの一部のように扱う。
それはまるで、月光の下に優雅に舞っているかのような。
そんなものを見慣れないと思ったのは、浩二の方が先だったのだろう。
「俺とこの動きじゃない。 待て中国槍術か? これ」
腰に手を当て部下を𠮟りつける女上司──────といいたいところだが、如何せん朱璃様の容姿が可愛らし過ぎる。
「保、お前もだ。 お前が弱いのは、長らく人の世界のぬるま湯に浸りすぎていたせいだろう。 我らの世界は常に死ぬか生きるかだ。 取り戻せよ──────尊い獣の血を!」
それでも声も高らかに余裕すら感じさせる威風は、周囲の人を含めた生き物から言葉を失わせた。
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