ぼんやりお姉さんと狼少年
第40章 里の特産月の石
かなり昔はお寺だったという弟が通う道場は、山すその石段を登った上にある。
何羽かのフクロウがどこかで鳴いている、ろくな明かりもない道を、一見して風変わりな私たち一行はそぞろ登っていた。
「確かに場所を変えろとは言ったが、ここは人家なのだろう?」
二ノ宮くんを肩に担ぎ上げて先を行く浩二に、後ろから朱璃様が口を開いた。
「問題無い。 二ノ宮の応急処置も出来るしうってつけだ」
「浩二、アメ食べる? 寒くない、上着貸そうか」
「浩二くん。 今度飲みにいこーよ。 奢るよ」
「……なんだお前らはさっきから。 いらねぇよ」
胡散臭げにあしらわれるも、私と二ノ宮くんが肩を竦めて顔を見合わせる。
だって、ねえ?
「……なんですか、これは」
目的地に近付き伯斗さんが戸惑った声を出したのも無理はなく。
今どき珍しく古めかしい和風家屋の門の両脇で、ギラギラと七色に移り変わる光を放つ、それらの装飾はどことなく異様な光景だった。
「今月はクリスマスだからな」
「オレも手伝わされたよー……これ」
「相変わらずなのね。 お師匠さんのイベント好き」
「世間はクリスマスか。 懐かしいなあ」
こてこてに飾り付けをされた二本の大きなツリーの間を通り、引き戸を開けると浩二が遅くなりました、と大声を上げた。
出迎えてくれだのは還暦を過ぎた辺りの、眼鏡を掛けた、どちらかというと小柄な男性。
柔和な顔付きでなで肩の体型は、こういっては失礼だけども、そこそこ大きな道場の師範をしてるようにはあまり見えない。
この人がお師匠さんである、山中さんである。