テキストサイズ

ぼんやりお姉さんと狼少年

第40章 里の特産月の石



「こんなもので自我を失い、なにが妻子なんでしょうねえ」


また人狼の表情に戻った狼が伯斗さんの言葉に憮然とした様子で顔を背ける。
一応変化したときの記憶はあるらしい。


「保。 おそらくお前は知らなかったんだろう。 お前の叔父は」


朱璃様が言い終わるか終わらないうちに、ずっと黙っていた二ノ宮くんが激しくそれを遮った。


「嘘だ!!」
「二ノ宮くん」

「ある訳ない。 そんなのは、嘘だ…………」


悲痛な声でそれを否定する、二ノ宮くんの体が震えて包帯からじわっと血が滲んだ。
血が繋がっていないとはいえ、卓さんは一緒に過ごしてきた二人っきりの仲間だったのだろう。


「保」

「まあ二ノ宮。 ここでちいと休みなさい。 なにせ傷を癒すことだ。 何日でも良い」


口を挟むことも無くやり取りを眺めていた山中さんがやんわりと彼の体に手を触れる。
伯斗さんもそんな二ノ宮くんに同情のこもった、しかし厳しい視線を送った。


「出来れば……そうですね。 今戻るのは危険かもしれません」


顔を伏せたままの二ノ宮くんにかがみこみ、そっと手を握ってみた。


「桜井さん?」

「二ノ宮くんみたいに、人になれる人狼にはなんともないのね?」


直に触れさせた石に対し、彼の場合は顕著な反応はない。


「うん? ああ……そうでもない。 なんか、楽だな。 痛みも和らいで」

「良かった。 そしたらこれは二ノ宮くんが身に付けてたらいいよ。 脇の傷が少し深いみたい。 早く元気になってね」


傷付いている方に近い腕に緩くそれを巻き、人の姿になっても圧迫しないよう、すぐに外れるように結んでおいた。


「桜井さん……ゴメンな」



ストーリーメニュー

TOPTOPへ