ぼんやりお姉さんと狼少年
第40章 里の特産月の石
「浩二、伯斗さん。 この人抑えてて下さい」
そう言って狼の額の辺りにそれを置くと、一瞬目を見開いた彼が激しく威嚇の声をあげ始めた。
「───────ッグルル……ッ!! がァァァっ!」
「わっ!?」
驚いた浩二が体重を掛けてそれを抑え、また石を取ると大人しく床に頭をつけフゥフゥと息をする。
まるで野生のただの獣に戻ったさまは、先ほど外で見た彼と同じ。
今も月の影響は変わらないというのに。
いくらかここで粗暴な態度を取ろうとも、改めて見ると『これ』と人狼とは全く違う。
その様子を見ていた朱璃様がこちらに近寄り私に聞いてきた。
「今のはなんだ?」
「前に供牙様から、聞いたことがあるんです。 これには多くの霊力が込められていると。 おそらくこの彼にとっては強すぎて、ドーピング? 覚醒剤みたいなものじゃないんですか」
言うなればより獣に近くなってしまうような。
力の抜けた狼から口を離し、伯斗さんが首を傾げる。
「ですが、そんな者は今まで里には」
「里にいるのはお年寄りなんですよね、採掘場でこれを守っているのも。 伯斗さんもこれを持ってなんとも無かった。 満月と同じく、おそらく若い狼にだけ効き目があり過ぎる、とかはないですか」
あくまで推論ですけど。 そうつけ加える。
「そういえば、私でもその者を運んでくる時は、なんだか体が軽く感じましたな」
「可能性として充分有り得る。 ものにはよるがそれは別名月の石、とも云われる位だから。 私みたいな人間にはちっとも分からなんだが」
それでもこういうものは、一般的には無尽蔵に力がある訳では無い。地に根ざし、あの里であるからこそ効力を発揮するんだろう。
でもなんだろう? もう一つ、忘れてるような気がする。