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ぼんやりお姉さんと狼少年

第40章 里の特産月の石


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道場の奥にある、神棚などが祀られている近くにある、時計の短い針が1周し、そろそろ日付も変わろうとしていた。


朱璃様と伯斗さんは、明け方を待って里へ戻るという。
そもそも朱璃様は滅多に里を出ないものね。

安静第一の二ノ宮くんはここに泊まって体を休め、私と浩二はほど近くの実家に帰り、今晩はおいとますることにした。


ちなみにあの狼たちはなんとか動けるとみて、石を外したあとに『自力で帰れ』との達しが出て放免された。



「朱璃様」


さすがに外に出るのは冷えるのか。
それでも冴えた空を見上げにだろうか。

道場を出た廊下にある、中庭とガラス戸で仕切られた、縁台にちょこんと佇んでいる朱璃様に声をかけた。


「どうした真弥。 折り入って」


隣に腰をかけて、少しお話ししていいですか。と、小声で呼びかけた私に、彼女が不思議そうに聞いてきた。



「二ノ宮くんは里に帰りたいと言ってました。 たとえ卓さんに罪があっても、二ノ宮くんとは関係ありませんよね?」


琥牙の話によると、当初は同じ仲間だということで二ノ宮くんの方にも疑いがあったはずだ。
それもおそらく今日晴れただろうけど……だからといって、彼らの世界で、二ノ宮くんがどう扱われるのかが分からなかった。


「そんなことか。 一族同罪なんてことはせぬぞ。 それに、あやつは『帰りたい』と言ったのだな?」

「あ、はい」


軽く笑みを漏らすように表情を緩めた朱璃様が話してくれる。


「故郷を見付けたということだろう。 あの歳まで己の居場所が無かったのは辛いことだ。 ……そんな意味で、あの叔父のことも心が痛むだろうがなあ」

「あの若い狼はどうするのですか」

「妻子も居るし本能から里に戻るのだろうが、しばらくは謹慎だろうなあ。 月の力も治まって心を入れ替えたのなら結構。 そうでなければ……どうするかは琥牙。 あれが決めることだ。 すでに私は決定権をあれに譲った」


特に琥牙がそうだということはない。
だけど彼らはそもそも、『仲間』や『身内』以外────────特に敵に関しては、容赦がないのだ。

そんな意味で、私は二ノ宮くんのことを心配していた。




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