ぼんやりお姉さんと狼少年
第44章 おねだりは露天風呂で*
「ん……気持ちい」
頬っぺたに置かれた冷たいタオルがじんじんと熱くなってきていた肌を覚ましてくれる。
「でもなんで、ここなの」
「一緒にお風呂に入りたかったから」
だって母さんと入ってて、なんでおれは除け者なの。 そんな風に琥牙が拗ねた口調で言ってくる。
「じゃあ朱璃様と入ればいいんじゃない」
「勘弁してよ」
心底嫌そうに被せてきて、そんな琥牙に小さく笑う。
あの後すぐにタオルや部屋着などを取りに行き、里の露天風呂に直行された。
服も汚れてるし、気持ち悪いでしょ? そんな彼の言葉に頷いたものの、いきなり彼の実家のお風呂に二人で入るってどうなの。
……とはいえ、十分に足を伸ばした広さの浴槽に浸かるお湯は気持ちよすぎて、温泉ならではのぬめりのある泉質はアルカリ寄りなのか。
琥牙に後ろから抱っこされた体勢で、思わずほうと息をついた。
少し紫がかる雲のかかった空を見上げ、彼がすんなりとした首を伸ばして呟く。
「………雪、降りそうだね」
今は夕げの時間帯。
里の屋内での騒がしい会話や笑い声がここまで響いてきた。
老若男女、人や狼。
それらの垣根を越えて、ふんわりとあわい灯りに包み込まれるように、山奥の夜のしじまにこだましては消えていく。