ぼんやりお姉さんと狼少年
第44章 おねだりは露天風呂で*
既に暗くなった辺りは、冬の冷えた空気で痛いほどなのだろう。
今浸かっているお湯から立つ湯気のせいで、外気にさらされている部分にも、のぼせない程度の、ひんやりと丁度いい加減を私に提供してくれていた。
私がもたれている背中には琥牙の胸があり、心身ともにほぐれるような心地好さ。
取った手を私の肩越しに見ていた彼が、手のひらの親指の付け根あたりに赤く擦れた筋を見付ける。
「擦り傷」
不機嫌とは言わないまでも、強いていえば気の進まないことをやらされてるときのような声の色だと思った。
地面に手をついた時のものだろう。
くるん、とそれを裏返してから腕の方に移動し、またそれの周囲を観察する。
「ここも」
それが終わったら、次は右腕を探索していく。
見付けても面白くなさそうなものを、なぜ彼は探すのかと不思議に思う。
大丈夫だよ。 そう言うと、私の膝の丸みを彼の手のひらが包む。
「ここも赤い。 ジーンズ破れてなかった?」
「ん、多分……琥牙こそ? 頬っぺたと、頭の皮膚も切ったよね」
それよりもずっと重症な人が土間にいるんだろうけど。 と、それは黙っておく。
「おれは心配ない」
彼位になると、修復能力も半端ないんだろうか。
頭とかも切ったら生えてくる? そんなことを冗談で訊いてみると、切ったことないから、分かんないな。 至極真っ当? な答えが返ってきて、私を膝ごと抱き込んだ。