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え、ちょっと待って、なんで私が勇者なの!?

第1章 ちょっと、待って!

「でも、これ本当? 今いた蛾がそんなこと言ってたぁ?」

光邦は、半信半疑だ。

すっかり化粧を落とし、赤い厚めのTシャツ姿になった万次郎は、フフンと鼻を鳴らす。

「そのアプリを使って、今から帰って彼氏とデートなの。だから、お先ね」とリアルなイケメン男性に早替わりした万次郎は、衣裳と化粧箱が入った大きなカバンを持って、控室から出ていった。

光邦はじゃあねと手を振りながら、笑って、

「な~にが彼氏とデートよ。これから帰って、犬の散歩じゃない」と言った。

ペットボトルの水をクイッと飲み、鏡を見る小平板は、「ペットかぁ、私は匂いたつ親父でも飼おうかなぁ」と口紅を塗り直す。

「西成のあいりんに行けばいくらでもいるわよ。つか、アプリいらないよね」

そんな話をしていると、先ほど喫煙しに外に出ていた、残りの二人が戻ってきた。そのうち、スキンヘッドに世界地図のタトゥーを入れた、完全に自らの方向性を見失っているオネェが、光邦に話しかける。

「ねえ、壺ちゃん。外で変わった姿の若い男性が、あなたを呼んでほしいって言ってたけど?」

「男性?」

「うん、なんかたどたどしい日本語だったわよ。ジンガイさんかも~」

「そう、ありがとう。今から行くわ」

そう言うと光邦は、上から薄手のジャケットを羽織り、外へ向かった。

地下の奥にある扉から、店の入り口の前を通って階段を上がる。

その壁の隅に蜘蛛の巣が張ってあるのを見つけた。そこに、1匹の蛾が見事に捕まっていた。

(凄いやん、アプリ)

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