双龍の嫁
第2章 風龍
今日は風龍と初めて会う、約束の日です。
「あまり遅くなると失礼だからね」
そう言って水龍はわたしを抱いて水面へ向かいました。
だけど、またちゃんと帰ってくるんだよ。 それに答える代わりに、そんな彼の口を優しく塞ぐように端に口付けをします。
久しぶりに湖から地上に出たわたしは辺りを見回し、岸辺にある、元の場所に畳まれている花嫁衣裳を見付けました。
まだ朝陽が登ったばかりだということを示すかのように、橙色にきらめく湖面に目をそばめながら地を踏みしめました。
今いまは、身なりを整えるのが先です。
「これはまた。 扇情的な花嫁だ」
そんな頭上からの軽やかな声と共に、ふわりと裸足の足を地面につけた彼の身にはゆるやかな風が纏われています。
彼があきらかに人ではないのは見て取れます。
けれど、まさかこんなに風龍が早く来て下さるとは思っていませんでした。
「も、申し訳ありません!!」
わたしは思わず声を上げてその場にしゃがみこんでしまいました。
だってずぶ濡れのわたしの姿はとても酷いものに違いありません。
湖水に流れて揺らいでいたわたしの髪はべったりと顔や体に張り付いていますし、そこでたなびいていた薄衣も今やはしたなく透けて、これでは裸体の方がましというものです。
「そんなことだろうと思って、こうやって私が迎えにきた」
彼がそっとわたしの手を取って、その身を寄せました。
春風のようにあたたかな空気がわたしを包み、くるくると私たちの周りを流れはじめると、乾いたわたしの髪が細く束ねられ空に舞いました。
「ここで呑気に乾くのを待ってたら体を冷やしてしまう」
彼のその、薄い腰布を纏っただけの肌に触れてわたしは戸惑いました。
痩せて白く透き通るほどの皮膚の色でした。
視線をあげると、これも同じように薄い葉を陽にかざしたような淡い翡翠の瞳です。
四六時中彼の周りにある風のせいか、それよりも濃い緑の髪は長さもばらばらに絡まっています。
そんな彼からは龍というよりも神秘的でいたずらっぽい、森の精のような印象を受けました。