双龍の嫁
第2章 風龍
「ん………おや?」
「どうかしましたか」
ふと頭の上に落ちてきた不審げな声に反応すると、風龍は口をへの字に曲げ、曖昧な言葉をかえしてきました。
「んー……? なんだろうな?」
「…………」
初対面の龍の考えなどわたしには分かりません。
「よし、もう乾いた。 ……ええと、お前の名前は」
「……あっ…すみません! わたし、ご挨拶もせずに!!」
まだ名乗ってもいなかったことに気付いたわたしは急いで後ずさりをし、ふたたび彼のもとに跪こうとしました。
するとわたしの頭の上に手を乗せて軽く眉根を寄らせた彼が静かに首を振りました。
「私はそういう堅苦しいことは苦手というか、嫌いでね」
ふー、とため息をつく龍に、何やらわたしが彼の気分を害してしまったことは分かりました。
「すみませっ……」
「同じことを二度言わせるんじゃない」
冷たくぴしゃりと跳ねのける冷たい声に、わたしは震えました。
水龍の優しさに、今まですっかりと慣れて甘えていたのかもしれません。
彼らは本来、人びとから恐れられ、敬われている龍。
たとえ花嫁であろうとも、わたしはただの人間なのです。
今まで彼とした会話の記憶を必死にたどり、わたしは小さく口を開きました。
「─────沙耶と申します」
「それでいい。 私の花嫁が頭のにぶい女ではなくて嬉しく思う。 さて。 そろそろ行こうか、沙耶」
「えっ……きゃっ!」
再び私の体を抱きしめた風龍の足は地面に着いていませんでした。
その下にうずまきのような空気の集まりができたかと思うと、ぐるぐるそれがまわり始め、おおきくますます速くなり、周りの草葉を巻き込みます。
それが目で追えないほどのかたまりになったと思った途端、わたしたちは空へと飛び上がりました。
「…………っ」