双龍の嫁
第2章 風龍
「そういえば以前の花嫁は火の者だったが、この事で酷くもめた覚えがある。 雄鶏でさえ巣を作って雌を迎えるのに、迎える家の無い私は無礼なのだそうだ」
「鶏、ですか」
わたしは無造作に伸びるに任せ、絡みに絡まった彼の髪を思い出しました。
あれは丁度、鳥の巣のようなものだと思うのです。
「根負けした私は家を構えたが、やはりどうも連日寝不足でな。 それで結局寝所を別にしてしまったのだが……今思うと、そんな風だったから、あれは気ぜわしく早くに逝ってしまったのかも知れないな…………沙耶?」
「あっ、はい?」
「お前は、聞いていたのか? 人の話を」
「……実は、余り」
正直わたしは他人のうわさ話などは眠くなってしまう性質です。
どうせでしたら水龍のように、昔の出来事や冒険などのお話をしていただければ飽きないのですが。
そんなわたしに、風龍は少しばかり呆れた声音を作りました。
「では先程は何を考えていたのだ?」
「あなたのことを」
ん、と聞き返してくる彼にその時思っていた事を告げました。
「そんなに髪が絡まっていると、そのうち鶏が巣を作って雌でも呼びそうです。 明日わたしが整えてあげましたら、今のその瞳とおなじになびく髪のあなたは、もっと神々しく、爽やかで………」
そこまで言って、口を閉じてしまいました。
上からのように龍を褒めるなど、あってはならない事なのかもしれません。
「爽やかで、なんだ?」
それなのに続きを催促してくる彼に、わたしは刹那の無言ののちに目を伏せました。
「とても、素敵だと……思ったのです」
そう告白して俯くわたしに夫はくい、と顎を上向かせてわたしの顔を見詰めました。
「そうか。 では許す」
軽く口付けを落とされて目を丸くすれば、今度は瞼に、なにか言おうとして口を開ければ次は唇に。
私の髪が魅力的な雌を呼び寄せたのだな、などと鷹揚な口をきいてきます。
そんな夫に、わたしもいつか口元を綻ばせ、普通であれば、吹き荒れる風に飛ばされてしまいそうな岩間でさえも、夫の腕に抱かれて幸せを感じるのです。
夢うつつの中、そういえば水龍の話の途中もわたしは眠ってしまっていたのだわ。 そんな事などを思いめぐらしながら目を閉じました。