双龍の嫁
第2章 風龍
「寝床や住処を持たないのですか」
今日はこの辺で寝よう、と切り立った崖の上に胡座をかいて座る夫に、思わず目を見開いてしまいました。
それでなくとも、せめてもう少し安定した場所があろうものなのに。
「風を感じる場所でないと眠れないのだ。 そして毎日それは違うものがいい」
谷底から押し上げるように吹く風も、彼にとっては心地の良いものなのでしょうか。
「雨露や寒さはどうやって防ぐのですか?」
「そんなものは私には関係がない」
確かにいつも春風を肌の一部のように纏う彼にとってはそうかもしれません。
「こんな場所は嫌か?」
そう訊いてくる夫に首を傾げ、では陽の光の強い所はどうですかと聞き返しました。
「それはさすがに勘弁だな。 陽は防げぬ」
不快そうに眉をしかめる夫に同意したわたしは彼の傍に座りました。
「抱いて寝てくださると嬉しいです。 わたしは寝心地がよければどこでも構いません」
「寝心地………」
「あっ、すみません。 あなたを寝床代わりのように」
慌てて言い直そうとする私に彼は含み笑いでそれを制しました。
そして膝の上に私を乗せ、自分にもたれかかれと言ってきます。
「どうだ? 私の寝心地は」
「…………とても、いいと思います」
小さな声でそう言うとそれは良かったと頭の上から声が降ってきました。