双龍の嫁
第2章 風龍
でも、それはなぜでしょう?
今ここにいる間はわたしの夫は風龍です。
わたしは自問しました。
彼らはわたしの夫。
どちらが好きも嫌いもありません。
個々の違いはあれど、それは愛情とは関係はない。結婚は好きや嫌いでするものではない。 嫁入りの前に、祖母がわたしに言い聞かせてくれました。
水龍と過ごている間に感じた、あの包まれるような安心感。
とはいえ風の龍といる時のわたしも、まだ短い時間をともに過ごしただけですが、実際の家族よりも彼と寄り添う事が出来るのです。
そこでまた思いました。
彼らは龍。
わたしは自身に課せられた運命のためにここに嫁ぎました。
心は移ろうもの。
そう言われたわたしは、ただどうしようもない淋しさに襲われてしまったのです。
そして、知らずのうちに、わたしは彼らに対し、普通の愛情を移していた事に気付いてしまいました。
「ですが、龍とその花嫁が添い遂げるのはことわりのはずでしょう?」
「ん、突然なんだ? ああ、そうだが。 たとえ心が背こうとも……どうした? 沙耶」
ぐいぐいと体重をかけて、龍の厚い胴に両腕を回しだきしめるわたしに、夫は不思議そうに訊いてきました。
「わたしはあなたに背きません。 あなたがもし、他の女性に移ろうとも」
目を閉じて訴えるわたしに対し、彼は押し黙りました。
「……その類いの言霊は好きではない」
その後そう冷たく言われ、心許なく視線をあげると、目を逸らせた夫の白い肌には赤みがさしています。
それと同時に再びわたしの胎内が温かく泡立ち始めました。
「怒っているのですか?」
彼の様子に反し、彼の欠片は官能を揺さぶり引き出すものではなく、わたしをいたわるように静かに弾ける動きでした。
「花嫁の甘言にいちいち喜ぶほど、私は初心ではない」
相変わらずこちらを見ずにそっけなく答える風龍に首を傾げると、イヌワシが羽ばたく音が聞こえました。